Volume.02 SHINSHU LOCALISM

歴史と文化が薫る
自然豊かな信州上田

ROUNDTABLE DISCUSSION

クロストーク
上田市長:土屋 陽一さん
上田市地域交流アドバイザー:間藤 まりのさん
移住者:齋藤さんご夫妻

歴史と文化が薫る自然豊かな信州上田

上田市といえば、戦国武将・真田氏発祥の地。歴史ロマン薫る観光地として人気だが、ここに住むとなるとどうだろう。そんな疑問に答えてくれるのは、上田移住歴1年の齋藤友秋さん・純那さんご夫妻。上田市長・土屋陽一さんと市の地域交流アドバイザー・間藤まりのさんを迎え、住むまちとしての上田の魅力を語り合ってもらった。


新幹線で東京まで1時間半。なんなら、都内まで通勤できてしまうほど恵まれた立地にあるのが、長野県第3の都市・上田市だ。 「上田はちょうどいいまち」。ここに移住した人の多くが口にする言葉だ。駅の周辺には、生活に欠かせない施設や飲食店がコンパクトに集まっていて、程よく栄えている。そしてこの市街地からは、どこを見渡しても山がある。郊外には千曲川の流れと田畑が織りなす原風景が広がり、菅平や美ヶ原といった高原リゾートへもふらりと出掛けられる。都市と田舎が混ざり合う、ちょうどいいまち。上田市には、そんな不思議な魅力がある。 友人が移住した上田市へ通ううちに、「すっかりここが気に入ってしまって」という齋藤さんご夫妻。コロナ禍を機に、東京から上田市へと移り住んだ。「爽やかな空気や温泉。好きなところはたくさんあるけれど、一番は人のあたたかさ」と語るご夫妻に、地域交流アドバイザーの間藤さんも「上田の良さは、住めばわかる」と太鼓判を押す。 人々が集い、笑って語ってつながって。そんな心豊かな暮らしが、ここから始まる。

齋藤友秋さん・純那さんご夫妻が営む「と」の前で。「と」とは「and」の意。カレーと珈琲、雑貨、本、音楽、リサイクル……と、さまざまなモノがつながる場にとの願いが込められている。

地元・上田市出身で、上田市長の土屋陽一さん。「北は菅平高原、南は美ヶ原高原。まちの真ん中には、千曲川が流れている。温泉も豊富で、日々の中でも憩えます」

地域交流アドバイザーの間藤まりのさん。フリーライターやまちづくり会社経営のほか、空き家の利活用を行う「まにまに」と古材のアップサイクルを目指す「もくぞう」を運営。

どのようないきさつで
上田市へ移住したのですか?

齋藤純那さん(以下、純那)決定的だったのはコロナ。趣味の音楽活動もできないし、友人とも遊べない。飲食業の夫は休業しました。東京にいる意味がどんどんなくなって、だったら移住しようと。友人が移住した上田市の真田町を選んだのは自然な流れでした。上田駅に降り立つと、とにかく空気が清々しい! 真田はさらに標高が高いから、夏は涼しいし、山がどんどん迫ってくる自然豊かな環境も気に入りました。
土屋陽一市長(以下、市長) 上田市は一年中晴天率が高く、降水量も少ない。年間の平均降水量は約900㎜と、全国トップクラスの少雨乾燥地帯です。こうした気候は移住先を考える上で、非常に重要な要素ですよね。新幹線が止まり、高速道路のインターチェンジもあるなど、交通網も充実しています。令和6年春に北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業すれば、北陸方面へのアクセスもさらに向上します。

——交通の便が良いと、移住までの準備もスムーズですよね。純那さんは、移住の1年前から上田市に通っていたとか。

純那 はい、家探しのために。飲食店の開業に向けて、店舗兼自宅という物件を探しました。「地方には空き家がいっぱいあって、安く買える」って思いますよね。ところが、なかなかいい物件が見つからなかったんです。そこで頼ったのが、地域交流アドバイザーの間藤まりのさん。「信州うえだ空き家バンク」や不動産サイトには出回っていない家を案内してもらいました。
間藤まりのさん(以下、間藤) 私のような地域交流アドバイザーは上田市から委嘱されて、移住希望者や移住者の支援をしています。例えば「地域交流の輪に入りたい」「何か物事を始めたい」という相談があれば、人と人をつなげます。ほかにも「寒さや雪は?」「子どもの習い事はある? 月謝はどのくらい?」といった些細なことが、結構切実だったりしますよね。そういう相談にも、きめ細かく対応しています。
純那 空き家を取り巻く現状も、間藤さんが教えてくれました。修繕や片付けが必要だったり大きすぎたり、何かの理由で流通市場にのらないだけで、空き家は余るほどあるんです。「もったいない、活用したい」って思いましたね。ひとまず友人の親戚のお家をお借りして移住を始めることになりましたが、これからも家探しを続けていくつもりです。

2019年、上田市丸子地区に誕生した「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」にて。窓の向こうには、東京ドーム約6個分の広大なブドウ畑が広がる。

荒廃した桑畑を開墾し、「椀子ヴィンヤード」を開園。それから20年、世界に高く評価されるワインの一大産地へと成長した。

シャトー・メルシャン各産地のワインは購入のほか、テイスティングもできる。大きなガラス越しに、ワインの醸造施設や樽庫の見学も可能。

——2023年3月には、真田でカレー店「と」をオープンされましたよね。

純那 今の店舗は、友だちが見つけてくれたんです。珈琲豆屋さんの隣にある喫茶スペースが、もう使われていないんじゃないかって。でも、ここに辿り着くまでが大変で……。見かねた友だちやその親戚のみなさん、情報通の地元のみなさんが協力してくれました。軽トラで空き家物件を回ってくれたりね。人と人がつながっていく、この感じは生まれて初めて。遠回りしたからこそ、幸せな出会いがたくさんありました。
間藤 そうなんですよ!何かをやってみようと思ったときに、手を貸してくれる人がたくさんいますよね。それが、“住んでわかる上田の魅力”じゃないかな。
齋藤友秋さん(以下、友秋) 店のセルフリノベーションも、友だちが手伝ってくれたんですよ。3カ月も頑張れたのは、真田のあちこちにある温泉のおかげ。中でも「千古温泉」の泉質は最高で、この温泉がなかったら開業は無理だったと思うほどです(笑)。

信州上田クラインガルテン眺望の郷 岩清水。

美術館、ホール、芝生広場などを擁するサントミューゼは、人と芸術が触れ合い交流する場。

移住者を呼び込むための、
上田市の取り組みとは?

市長 移住を考えている方は、上田市への移住に関する情報サイト「うえだ移住テラス」を覗いてみてください。ここでは、上田暮らしにまつわるQ&Aや移住セミナー・イベント情報、ガイドが綴る上田の暮らし、移住したくなる上田の魅力特集など、さまざまなコンテンツをお届けしています。まずは上田のことをよく知って、暮らしのイメージを膨らませてほしいですね。
純那 転職の支援はどうですか。県外から遊びに来る友だちは、みんな上田を気に入って「帰りたくない」って言うんです。じゃあ、なんで移住しないのか。理由はやっぱり仕事なんですよね。移住には「仕事に就けるか」という不安がつきものです。その不安を解消できる何かがあれば、みんなをこっちに呼び寄せられるんだけどな。
市長 ありますよ。上田市では「シードジャパン株式会社」という人材マッチング企業に委託して、移住者の就職支援事業を行っています。ネット検索では得られないリアルな情報を提供できるのは、20年かけて培ってきた地元企業とのパイプと地域密着のノウハウがあるから。「自分に合った会社か、働き続けられるか」という視点を大切に、仕事探しを手厚くサポートします。また、仕事に就いてからも状況を確認し、「移住者の会」を開催するなど、アフターフォローもしっかりしているんですよ。また就業・創業後には、三大都市圏からの移住者を対象に、単身60万円・2人以上世帯(18歳未満の世帯員を除く)100万円の移住支援金も交付しています。

真田町「千古温泉」のすぐ隣に誕生した宿泊施設「SENKO TINY CAMP」。コテージ一棟を貸し切って、キャンプやBBQが楽しめる。移住の第一歩に、ここでスローな信州暮らしを体感してみるのもいい。料金は4名以下2万5300円、最大8名まで宿泊可能。(繁忙期は割増料金あり)

夏季には、隣接する自家農園で野菜の収穫体験も楽しい。齋藤ご夫妻も大絶賛する信州の大地の恵みを、BBQで味わいたい。

源泉かけ流し天然温泉「千古温泉」入り放題は、宿泊者だけの特典。

——期間限定で上田市にお試し移住という、新たな選択肢も増えましたね。

市長 2021年に開園した「信州上田クラインガルテン眺望の郷 岩清水」ですね。「クラインガルテン」とはドイツ語で「小さな庭」という意味で、滞在できる宿泊棟と農園がセットになった施設。契約期間は1年ですが、特例更新も含め最長4回更新ができます。いきなり移住というのは、勇気がいりますよね。「クラインガルテン」で上田の暮らしを体験し、水が合えば本格移住というのもいいでしょう。また滞在期間を利用し、住まいや仕事を探すという方もいらっしゃいます。
間藤 上田は子育てもしやすいですよね。子どもたちは、私が全然知らない地域の人たちと仲良しなんです。「畑のおじちゃんにリンゴもらった~!」って帰ってきたり、悪さをすると叱られたりします(笑)。地域全体で、子どものことを気に掛けてくれるのを感じて、すごく安心だなって。
市長 上田市では、2023年から子育て世帯への支援を強化しています。福祉医療費助成制度の支給対象年齢は、15歳(中学校卒業)までから、18歳年度末まで拡大。病気やケガなどによる受診や、処方せんによる投薬を受けた時の自己負担金を助成しています。ほかには、出産祝い金制度もありますよ。第一子1万円、第二子3万円、第三子以降は1人につき5万円を支給します。
純那 もうすぐ子どもが産まれるので、それはうれしい!費用を気にせず病院にかかれるのも安心ですね。 市長 市内各所にある「子育て支援センター・子育てひろば」にもお出掛けください。育児相談や仲間づくり、情報交換の場として、無料で利用できますから。知らない土地に移住して、夫婦だけで子育てを抱え込むのは大変です。同じように子育てに関わる人たちの「生きた情報」を得られる場所って必要ですよね。

「SENKO TINY CAMP」の眼下には、「千古の滝」の清流が流れる。洗馬川の水流ですり減ってできた多段の滝は、「滑り台みたいで子どもたちが大喜び! 地元で人気の水遊びスポットなんですよ」と間藤さん。

秘湯と呼ばれる「千古温泉」は、源泉かけ流しの天然温泉。透き通った柔らかな湯に浸かると、温泉らしい硫黄の香りに包まれる。

移住、妊娠、開業と激動の1年
今の暮らしはいかがですか?

純那 野菜の力強さとみずみずしさに、毎日感動しています。「今まで食べてた野菜って、何だったんだろう。これが本当の野菜なんだ」って初めて知った気分です。東京にいた頃は、“生活の営み”というものがほとんど失われていたんですね。梅仕事に栗むき、干し柿……。一年中食べ物にせっつかれる暮らしですが、そういうのも豊かだなぁって。
友秋 家に帰ると野菜が置いてあったり、歩いていたら「どっから来たんだい?」って、地元の人がキノコをくれたり。最初は驚いたけど、人との距離感が心地いいんですよね。
純那 驚いたといえば、スーパーの「ツルヤ山口店」を出たときの景色が信じられなかった。山がほんと近いんですよ! 友秋「ツルヤ」は、移住を決めた理由の一つかも。品揃えが豊富だしプライベートブランドもハイレベルで、特にピザがおいしい!県外の友だちを連れて行くと、みんな喜びますね。1~2時間は見て回りたいって。

——音楽活動は再開しましたか?

純那 はい。夫はクラシックギターの弾き語り、私は色々なバンドと組んでオーボエを吹いています。こっちに来てから、二人でライブもしました。あとは、地元の人に譲ってもらったアップライトピアノを「と」に置いて、音楽教室を開いたり。「と」には、古道具やブランド古着を扱うコーナーもつくりました。この辺には、こういうお店がないから。開業準備のときから、地元の人たちはみんな「真田にお店ができることがうれしい」って歓迎してくれたんですよ。だから当時も今も、真田でお店を続けることに意味があるって信じています。そして、上田にはこんなに魅力的なことがいっぱいあるんだよってことを、発信していきたいんです。外から来た私たちだから、見えることがあると思うから。食を中心に、ここから人やモノがつながっていく場所になればいいな。

「と」の看板メニューは、スパイスや素材の旨味を凝縮した辛くないカレー。南インドカレーからヒントを得たという。この日のメニューは、『ウラド豆とムング豆のカレー』(二種盛り1050円、単品900円)。付け合わせの野菜を混ぜながらいただく。夜はカレー以外にも、一品料理などを提供。

音楽を通じて出会った二人らしく、食と音楽がつながる店を目指す。

店の内装は、業者の手も借りながらセルフリノベーション。カウンターの木材をはじめ床材や建具の一部には、間藤さんが運営する「もくぞう」の古材を使った。

牛乳と梅シロップでつくる『梅ミルクラッシー』(450円)ほか、ドリンクも充実。市内の古道具屋で調達するというグラスやカップ&ソーサ―もかわいい!

移住の心構えや成功の秘訣など
アドバイスをお願いします

間藤 「よっしゃ、移住するぞ!」って、気負いすぎない方がいい。イメージに縛られると、いつかしんどくなると思うんです。ふらっと遊びに来るような気持ちで始めて、だんだん友人が増えて、ふと気付いたら土地に馴染んでいたというような、ユルい感じが理想かな。「予定通りにいくわけがない」と思っていた方が、気が楽ですよ。困ったことがあったら、私たちが運営する真田の古民家交流拠点「さんかくのいえ」に、遊びに来てください。オープン日はInstagram「さんかくのいえ(@sankaku_no_ie)」で確認できますよ。
純那 間藤さんのおっしゃる通り!私たちも予定通りにはいきませんでした。すぐに空き家を買うはずが、今も賃貸ですからね。でも、結果オーライでした。季節を一周しないとわからないことってあるんですよ。特に上田は寒冷地だから、冬の暮らしに慣れることがすごく大事。家を買うのは、土地のことをよく知ってからでも遅くはありませんよ。移住の本当のよさがわかるのは、まだこれから。そのプロセスもゆっくり味わいたいですね。

——最後に土屋市長からお願いします。

市長 気候に恵まれていて交通網も充実、山あいの自然豊かな環境など、上田市には“住むまち”としての魅力が十分に備わっています。奈良時代に建立された信濃国分寺、鎌倉時代に栄えた塩田平の神社仏閣や別所温泉、そして真田氏が築いた上田城。こうした歴史的・文化的遺産は、どの時代においても、上田という土地に人々を惹きつける魅力があったということを物語っています。2020年に58人だった上田市への移住者は、2022年には121人に(※移住支援金など、行政関与に基づき把握した人数)。年々増えている移住者のみなさまの不安を解消できるよう、市としてさまざまなサポートを行っていきます。ぜひ上田市へお越しください!