Volume.01 SHINSHU LOCALISM
ローカルリゾートな暮らしが広がる
信州東御市の魅力を探す旅
ROUNDTABLE DISCUSSION
クロストーク
東御市長:花岡 利夫さん
東御市定住アドバイザー:臼井 美和 さん
移住者:渡邉家(夫婦+子ども3人)
Volume.01 SHINSHU LOCALISM
クロストーク
東御市長:花岡 利夫さん
東御市定住アドバイザー:臼井 美和 さん
移住者:渡邉家(夫婦+子ども3人)
まるで、リゾートでの日々を日常にするように。移住という選択をきっかけに、理想のライフスタイルをかたちにする人が増えている。たとえば、福島県から長野県東御市へと移り住んだ渡邉オヴさんもその一人。革新的なまちづくりで注目される花岡利夫東御市長、東御市定住アドバイザーの臼井美和さんとともに、“MOVE”の可能性と喜びを語り合った。
「東御には、いい風が吹いている」。このまちでは、そんな話をよく耳にする。長野県東部、人口3万弱のまち・東御市。晴天が多く過ごしやすい気候に恵まれた風土を生かし、近年長野ワインの中心地として注目を集めるこの場所は、子育て環境などの充実によって多様な移住者たちが集うまちにもなりつつある。時代が大きく変わり、多くの人がこれまでの常識にとらわれない「本当に心地よい暮らし」に向き合うようになった今、かつて「上田市と軽井沢町の通過点」と言われてきた東御市の魅力が再発見されているのだろう。 慣れ親しんだ日常を見つめ直し、そんな東御市へとMOVEした、渡邉さん一家。「自然の豊かさを感じる時間や、四季の移ろいを味わう食卓、家族が思い思いの趣味を楽しむゆとりなど、予想以上の喜びが待っていました」。そう穏やかな笑顔で語る渡邉さんに、自らも移住者であった定住アドバイザーの臼井さんも深く頷く。東御市はこうした“新たな風”を、「暮らす人が満足できるまちづくり」で、あたたかく迎え入れている。
花岡利夫市長(以下、市長) 私の生まれ育った山口県宇部市は海のまちでしたが、こちらは真逆の環境。山の中だなあ、というのは当然ながら、とにかく気候が良く、美しい川が流れ、過ごしやすい「ほどよい田舎」という印象がありました。東御市の徽章を見ても、オレンジ色の太陽と千曲川の流れ、そして心地よく吹き渡る風が表現されています。たしかにそのとおりのまちだと、しみじみと感じますね。
——渡邉さんが東御市に出合うきっかけは、まさにこちらの花岡市長だったとか。
渡邉オヴさん(以下渡邉) 妻と市長の娘さんが、たまたま仲の良い大学の同級生だったんです。だから妻にとって東御は、かねてから遊びに来ている親しみのある土地でした。僕がはじめてこの地を訪れたのは、東日本大震災の後。地震が起きた時は、海外生活を経て生まれ故郷である福島に戻り、妻と結婚し暮らしていたのですが、それまで当たり前に感じていた日常が全部揺らいでしまって。「これでいいのか?」と自問自答する日々をすごしていたとき、市長がなにも言わず東御に僕たち家族を招いてくださり、まちを案内してくれたんです。 たしか季節は秋で、東部湯の丸インターチェンジを降りたら、赤いりんごの実がたわわに実った果樹園の風景が目に飛び込んできたんですよ。その光景を見て「あ、なんかかわいいな、いい場所だな」って、すぐに良い予感がしたことを覚えています。加えて印象に残ったのは、生えている木の種類。福島は針葉樹が多いのですが、ここは広葉樹中心のいわゆる雑木林が美しくて、「なんか、リゾート感あるな」とワクワクしたんです。その「リゾート感」は、東御に暮らして10年が経つ今も、変わらないかもしれません。
臼井美和さん(以下、臼井) 地形もいいんですよね。まちのなかに「御牧原」という台地が横たわっていて、登るとまちが一望できて。
渡邉 そう!じつは僕、東御が一望できるお気に入りの道があって、丘になっているその景色を毎日見たいから、少しだけ遠回りして会社に行っています。
臼井 私が約4年間暮らしていた中国では、家を建てるときなどに風水を重視していて、わざわざ気を流すようなビルをデザインするほど。良い土地の条件もかなり具体的なんです。彼らのいう「土地の好条件」とは、光が当たって明るいこと、風が抜けること、北側には高い山、東側に川や丘、西に大通りがあって、南は池があって開けた土地であること……。大まかにいうとそんな感じなんですが、よく考えたらこれって、まさに東御市にぴったり当てはまるなあと思ったんです。だから、というわけではないと思いますが、東御って全体的に明るい雰囲気がするまちですよね。
市長 たしかに、明るくて心地よい、というのはありますね。「洗濯物がよく乾くまち」なんて言われることもあるくらいですから。それも、嫌な風の強さじゃなくて、気持ちよく吹いてくれる。湿気も少なくて、カラッとしていて。
渡邉 そういえばうちの長男も、東御に来たばかりのときは部屋の窓を閉め切ってすごすことが多かったけれど、あるとき空気が美味しいって感じたみたいで、窓を開けていることが多くなりました。もちろん、このアウトドアリビングは家族みんなが大好きな場所です。 あと、気候が良いというのは本当に実感します。この家を購入したとき、太陽光発電を目一杯のせてなかなかお金もかかったんですが、今も後悔しないぐらいしっかり発電・売電をしてくれていますから。
市長 暮らしやすい制度や設備の拡充など、住みやすさの仕組み的な面を整えるのは市政の役割ですが、そもそも東御市は自然環境が「住みやすい」。この、人間の身体に負荷をかけないような気候の良さは、このまちの印象に大きく影響してくれている、と私も思っています。
渡邉 「直感的に住みやすいと感じた人が自然と集まってくる」、そんなポテンシャルがある東御って、よく考えたらすごいですよね。制度などの条件が本当にその人に合うかどうかは実際住んでみないとわからなかったりもするけれど、肌感覚として「気持ちいいな、住みたいな」と感じて来てもらえていたら、まず第一歩はOKなんじゃないかな。まさに僕たちも、一生ここで暮らすかどうかなんてわからないながらも、「ここなら心地よく暮らせそう」という直感をたよりに飛び込んだ、そんな感覚だった気がします。
——実際、移住者も増えて、かなり盛り上がっているようですね。
渡邉 僕たちが引っ越して来た10年前を思うと、おいしいパン屋さんや洒落たカフェなど、新しいお店は本当に増えましたね。周りに移住者が増えたり、まちの様子は相当変わってきました。市長が就任1期目で「ワイン特区」(※注)を長野県内で初めて取得したことをきっかけにワイナリーがどんどん増えて、大きな変化のきっかけになったんじゃないかと思います。
——市政として他に、移住者を増やすための取り組みなどを行われているのでしょうか。
市長 移住者優遇というよりも、「ここに暮らす人が住み良いように」というのが基本ですね。私がまず力を入れたのは、出産できる場所の確保です。今、全国的にお産ができる病院の減少が問題になっていますが、この地域でも課題は同様。そこで東御市では、医療機関の負担をなるべく減らすようにとの思いから「助産所とうみ」を開所しました。そして、保育園の受け入れを0歳から行える保育園改革も行いました。もともと3歳からの受け入れが一般的だった長野県ですが、共働き家庭が増える現状には即さないことを重く受け止めた結果です。
渡邉 保育園や助産所の存在はすごく大きいですよね。たとえば里帰り出産ができる選択肢があれば、都会に出ていた人も「東御ってこんなにいいところだったっけ」と、改めてこの土地での暮らしを考えるきっかけになるかもしれないですから。
——渡邉さんは実際どのようなプロセスを経て東御暮らしを実現されたのでしょう。
渡邉 最初から気に入っていた、と話しましたが、それでもしばらくは、家族みんなで移住するとは思っていなかったんです。まず、妻と子どもが東御市のアパートで暮らし始め、僕は仕事の合間に月1回ぐらい、東御に足を運ぶ日々が約1年続きました。そうしているうちに「いいところだな、やっぱり移り住みたいな」という思いがどんどん強くなっていって、福島での仕事をやめて東御に移る準備を始めたんです。幸いなことに仕事はすぐに見つかって、今のデザイン事務所で働くことになりました。その後、本格的に定住するための家を見つけて今に至る、という感じですね。ちなみに、妻は福島時代、ピアノを教えていたのですが、東御でもその経験と技能を生かした仕事に就くことができました。 移住とか二拠点とか、ごく限られた恵まれた人だけのもの、というイメージがあるかもしれませんが、来てみるとわかるとおり地方にも仕事はあります。それに東御市なら、職種によっては都市部での仕事を辞めなくてもリモートを中心にときどき出社、という働き方もできてしまう。実際、新幹線も近いし、東京へのアクセスも便利ですから。
臼井 いわゆる「コロナ以降」のリモートワークの浸透によって、地方居住の敷居が下がった、と感じている人は多いですよね。
渡邉 ですよね。ただ、知人が少ない土地に来た場合、たとえば保育園などでの緊急連絡先を家族以外誰にしようか、など悩む場面はありますね。我が家はすっかり市長のご家族にお世話になってしまっていましたが……。臼井さんのところに相談に来られた移住者さんたちは、そのあたりどうしていますか?
臼井 場合によって、最初は私が緊急連絡先になってさしあげることもありますね。
渡邉 それは、かなり心強いですね。妻の友人などから、定住アドバイザーさんたちの存在が移住の決め手になった、という声も聞きますよ。
臼井 うれしいですね。「定住アドバイザー」は、移住経験者である私たちから移住を検討中のみなさんへ、よかったことや大変だったことも包み隠さず伝え、地域をご案内することで、より納得感のある移住を実現していただけたら、という思いで活動しています。
——定住アドバイザーとして、移住を成功させるためのアドバイスはありますか?
臼井 うーん、そもそも、私の周りでは東御市に暮らしてやっぱりダメだと帰ったお話はほとんど聞きませんね。でも、この土地に暮らす先輩たちの声に耳を傾けて、理解しようとする方は、たいてい地域になじんでいる気がします。最初はどうしたらいいの?と、つながりのきっかけを見出したい方へおすすめしたいのは、ちょっと意外かもしれませんが……温泉に通うことです(笑)。
花岡 なるほど、それは面白いね。
臼井 はい、私の実体験でもあります。裸のお付き合い、ではないですが、温泉でリラックスしているときなら、「地域の方のお葬式ってどんなふうにすればいいの?」なんて改まって聞きづらいことも、かしこまらずに教えていただけたりするんです。
渡邉 暮らしの準備の話でいうと、新しく車を買う人は、やっぱり四輪駆動が安心ですよね。軽自動車にも四駆のものもあるし、地域のディーラーさんなどからアドバイスをもらって選ぶのがおすすめです。あと、ふと思いついたけど、真面目な信州人らしい「15分前集合の習慣」っていうのは覚えておいたほうがいいかもしれない。
臼井 うん、あるあるですね。「○時からです」って言われて時間ぴったりに行くと、すでに会がはじまっていた、とかね。でももちろん、だんだん慣れていけば大丈夫です!
渡邉 自分が選んだ土地を愛して楽しむ、というのが一番かもしれないですね。僕も、地域の温泉に通ったり、子どもたちとお気に入りの公園にでかけたり、庭にやってくる野鳥や自然の美しさに感動したりして、周りに助けられながら日々を送っていたら、あっという間に10年が経ってしまいましたから。
渡邉 いろいろ話してきたけれど、まずは気になったら現地に足を運んでみることからすべてがはじまりますよね。これが海外への移住なら、たくさんの壁があるかもしれないけれど、国内ならパスポートもいらずどこへでも行けるわけですから。「移住したら土地に骨を埋めなければいけない」なんて身構えずに、馴染めなかったら帰るかも、くらいの気持ちで。ただ間違いなく言えるのは、東御市は自然が好きで、アウトドア好きな人にはぜひおすすめしたい場所。アウトドア派ではなかった僕でさえ、外で料理までするようになりましたから!
臼井 おっしゃるとおり、まず気軽にいらしていただけたらうれしいですね。私は現在、市の移住相談員もしておりまして、希望者さんの年代や要望に合わせた、オーダーメイドの移住ツアーを行っています。移住前につながりが出来て安心したと好評をいただいています。さらに2023年からは移住体験ができる「お試し住宅」もスタートしたので、ぜひ利用していただきたいですね。そして、晴れて移住した後は、すぐに成功とか失敗とか判断を焦らないことが大切。徐々に満足度をあげていこう、という気持ちでこの土地をゆっくり味わいながらすごしていだけたらと思います。
―最後に花岡市長からお願いします。
市長 先ほどからのお話のとおり、東御市の方針は移住者受け入れを手厚くする、ということではなく、暮らしている人が心地よくいられるまちづくり、をめざしています。けれどもちろん、いらしていただいた方全員が満足することは現実的ではありません。ここを気に入った方が、ずっと暮らし続けたいと思えるまちづくり。そのため教育や福祉の充実、そして暮らす喜びを増やす取り組みとしてワイン文化やスポーツ等の振興に努めます。「あのまちいいな、行きたいな」と思っていただける東御市で、みなさんの来訪をお待ちしています。
——みなさん、ありがとうございました。